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執筆者の写真ス・モンク カフェ

Grachan Moncur Ⅲ:アヴァンギャルド・ジャズの地平を拓いたトロンボーニスト


 ジャズの世界には、多くの伝説的なアーティストが存在しますが、その中でもGrachan Moncur Ⅲは特に異彩を放つ存在です。ニューヨーク市に生まれ、ジャズの革新者として数多くの貢献をしてきた彼の生涯は、音楽と共に歩んだ情熱の軌跡そのものです。彼の誕生日でもあり命日であるきょう6月3日に、その豊かな音楽キャリアを振り返り、その革新的な精神と影響力を再認識することは、多くのジャズファンにとって永遠のインスピレーションとなることでしょう。


初期の音楽教育と影響

 Grachan Moncur Ⅲは、1937年6月3日にニューヨーク市のサイデンハム病院で生まれました。叔父のアル・クーパーは、スイング期の人気スモールバンドSavoy Sultansのリーダーとして活躍しており、彼の父親、Grachan Moncur ⅡはSavoy Sultansのベーシストであり、Billie Holiday、Diana Washington、ピアニストのTeddy Wilsonなどの著名人とも共演するミュージシャンでした。このような音楽的な環境の中で育ったMoncur Ⅲは、9歳でチェロを始め、11歳でトロンボーンに転向しました。


 高校時代は、ノースカロライナ州のローリンバーグ・インスティテュートに通い、Dizzy Gillespieも学んだこの私立学校でジャズへの情熱を深めました。彼はオールステート・マーチングバンドでトロンボーンを演奏し、ジャズコンボのリーダーや音楽監督としても活躍しました。この経験は、彼の音楽キャリアの基盤となりました。


プロフェッショナルとしての第一歩

 高校卒業後、マンハッタン音楽学校とジュリアード音楽院で学びながら、Moncur Ⅲはプロとしてのキャリアをスタートさせました。1959年から1961年までRay Charlesのバンドでツアーを行い、Charlesのショーでの卓越した演奏が評価されました。1962年には、Art FarmerとBenny Golsonのジャズテットに加入し、その後、Jackie McLeanのクインテットで音楽監督を務めました。


ブルーノート時代の成功

 1963年、Moncur Ⅲはブルーノート・レコードでJackie McLeanと共に"One Step Beyond"と"Destination... Out!"を録音し、これらのアルバムは彼の作曲能力と演奏技術を示す重要な作品となりました。同年、彼自身のリーダーアルバム"Evolution"をリリースし、さらに1964年には"Some Other Stuff"を発表しました。これらのアルバムには、Herbie HancockやWayne Shorterといった一流ミュージシャンが参加しており、Moncur Ⅲの革新的な音楽スタイルが存分に発揮されています。


アヴァンギャルド・ジャズへの貢献

 1960年代後半、Moncur ⅢはArchie Sheppのアンサンブルに参加し、Marion Brown、Beaver Harris、Roswell Ruddといった前衛的なジャズミュージシャンと共演しました。1969年の夏にはパリに滞在し、BYG Actuelレーベルでリーダーアルバム"New Africa"と"Aco Dei de Madrugada"を録音しました。これらの作品は、彼の作曲と演奏における革新的なアプローチを示しています。


 また、1974年にはJazz Composer's Orchestraから、ジャズ交響曲"Echoes of Prayer"の作曲を委嘱され、このジャズ交響曲はフルオーケストラとボーカリスト、ソロイストをフィーチャーしており、彼の作曲家としての力量を示しました。


健康問題と教育活動

 1970年代以降、Moncur Ⅲは健康問題や著作権紛争に悩まされ、録音の機会が減少しました。しかし、1980年代にはCassandra WilsonやBig John Pattonと共演し、Paris Reunion BandやFrank Loweとも演奏を行いました。また、ニューアーク・コミュニティ・スクール・オブ・ジ・アーツでは作曲家として教鞭を取り、多くの若手音楽家を育成しました。


晩年の復帰と遺産

 2004年、Moncur Ⅲは新作アルバム"Exploration"を発表し、ジャズ界に復帰しました。このアルバムには、彼の作曲がMark Mastersによってアレンジされ、Tim HagansやGary Bartzといった名立たるミュージシャンが参加しています。彼の音楽は、ジャズの伝統と革新を融合させ、多くのミュージシャンに影響を与え続けました。


Grachan Moncur Ⅲのお勧めアルバム

  • "Evolution"(1963年)

Grachan Moncur Ⅲのデビューアルバム"Evolution"は、ジャズの歴史において重要な作品です。ブルーノート・レコードからリリースされ、Jackie McLean(アルトサックス)、Lee Morgan(トランペット)、Bobby Hutcherson(ヴィブラフォン)、Bob Cranshaw(ベース)、Tony Williams(ドラムス)といった豪華なメンバーが参加しています。アルバム全体を通じて、Moncur Ⅲの革新的な作曲技術とトロンボーンの演奏が光ります。特に、タイトル曲"Evolution"と"Monk in Wonderland"は、その独創的なアレンジと演奏で高く評価されています。


  • "Some Other Stuff"(1964年)

"Some Other Stuff"は、Moncur Ⅲのもう一つの名作であり、より実験的なアプローチが特徴です。このアルバムには、Wayne Shorter(テナーサックス)、Herbie Hancock(ピアノ)、Cecil McBee(ベース)、Tony Williams(ドラムス)が参加しており、モダンジャズの先駆者たちが集結しています。収録曲"Gnostic"は、複雑なハーモニーとリズムが融合した作品で、聴く者を魅了します。


  • "New Africa"(1969年)

パリで録音された"New Africa"は、Moncur Ⅲがリーダーとしての地位を確立したアルバムの一つです。Moncur Ⅲのトロンボーンと作曲の才能が光るこの作品には、アルトサックスのRoscoe Mitchell、ピアノのDave Burrell、ベースのAlan Silva、ドラムのAndrew Cyrille、そしてテナーサックスのArchie Sheppが共演しており、フリージャズとアフリカンミュージックの融合が特徴です。モーダルな要素が感じられるタイトル曲"New Africa"は力強いメロディとリズムが印象的で、Moncur Ⅲのダイナミックな演奏が際立ち、彼の創造力の豊かさを示しています。


  • "Exploration"(2004年)

長い沈黙を破ってリリースされた"Exploration"。Moncur Ⅲの再起を告げる作品です。Mark Mastersのアレンジによるオクテットが参加し、Tim Hagans(トランペット)、Gary Bartz(アルトサックス)などが演奏しています。このアルバムは、モンカーの過去の名作を再解釈したもので、"New Africa"や"Monk in Wonderland"などの曲が新たなアレンジで収録されています。モンカーの成熟した音楽性と新しいアプローチが融合した、聴き応えのある一枚です。


最後に

 2022年6月3日、Grachan Moncur Ⅲは85歳の誕生日にこの世を去りました。彼の音楽は、ジャズの深みと広がりを持ち、多くのファンに愛され続けています。彼の遺した作品は、これからも多くのジャズファンに影響を与え続けることでしょう。



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